第3回 鳥取自立塾 平成18年8月4.5日
1.特別講演「地方から日本を変える」
前全国知事会会長、前岐阜県知事 梶原 拓
○岐阜県の裏金作りの新聞報道
・自分が知事在任当時の出来事が今日、新聞報道された。まことに残念。
・私の関与しないことではあるが、トップに監督指導の責任はある。
・このように情報が組織の途中で遮断されることは驚くべきこと。
・指導力の限界を感じ、残念。
・裏金を作ってそれで運用していくということがこれまでまかり通ってきた。
・地方分権というのは究極の財政再建であると思う。
・自分たちの税金が中央に吸い上げられ、東京でお金が洗濯されて、自分の
金が人の金になって戻ってくる。手かせ足かせをされて。これが中央集権。
どれだけ無駄をしているかわからない。
・財務省がシーリングなどでお金を削ることでは、抜本的な国家財政の再建
はできない。
○「三位一体」
・もと片山、当時の総務大臣が使った言葉。それが一人歩きして曲解も招い
ている。地方へのカネを削るだけではまずいから、地方分権というおいし
い衣を着せているのが本質だ。
・岐阜県では私が知事の時、全国に先駆けて地方分権宣言、「夢投票」を行い
7万件くらい集まった。
・3年前、高山市で全国知事会を開催、ここから「戦う知事会」が始まった。
・地方6団体が結束したということは、もう一つの日本ができたということ
だ。
・これに対する国の態度は、決して前向きではなかった。また三位一体より
も郵政民営化を優先するとの動きもあり、緊張が走った。
・とことん玉砕覚悟という手段は取れない。義務教育費のことなど、大変不
本意であるが手を打ったという経緯もあった。
・3兆円の税源以上は有史以来の画期的なこと。しかしその他は惨憺たる状
況であった。
・腰の引ける知事もいる中、片山知事は正論を堂々と貫いた。が、結局一歩
下がってもらうしかないという実情もあった。
○地方の時代
・しかし時代の潮流は分権である。(歴史をひもときながら)過去のサイクル
からすると政治権力の中心が移らないといけない時代だ。中央から地方へ、
そしてさらに住民へ。その流れは中央官僚や族議員が堰きとめたとて、水
は必ずあふれて流れ出す。
・これからは地方議員が戦う時代。インターネットを活用し、これからその
仕組みを作る。地方議員は強い影響力を持ち得るはずだ。
・地方側が、空威張りで、やせ我慢で「地方から変える」と言っているよう
に見えるが、歴史を見れば確かに、世の中を変えたのは周辺のエネルギー
だった。(例を挙げつつ)
・国から権限、財源が来たら地方分権、地方自治になるという考えは誤りだ。
もう地方分権の時代だと、そう思い込むことが大事だ。地方の時代に切り
替えてしまうことが必要。権限も財源もまだないと言い逃れしている知事
や市町村長ではダメ。
・中央集権、全国金太郎飴、東京中心の日本。そこに、団体自治から住民自
治へ、市民にその体験をしてもらいつつ、多様性、個性を発揮する地方の
時代へ導かないといけない。
2.分科会
第1分科会「「新しい公共」と行政のアウトソーシング」
千葉県我孫子市長 福嶋 浩彦
○官と民のあり方を変える
・これから官がやることは、
@行政権力を伴う仕事。仕組み作り、運営、評価
A地域公共サービス、つまり民がやることのコーディネート
・例
介護サービスを例にとると、
官は認定、サービスの基盤作り、評価、事業者指定をやる。
民はサービス事業をやる。
・民にできるものは徹底して民に。公共を小さくしていいということではな
い。少子化対策に見るように、公共が担うことはますます大きくなる。
・そこでコミュニティの中で公共サービスを育てる。
・公共は充実させながら、「大きな公共、小さな地方政府」を目指す。
○アウトソーシング
・コスト削減=アウトソーシング、ではない。
・アウトソーシングはコスト削減のためでなく、新しい公共の創出のための
手法である。
○提案型公共サービス民営化制度
・提案型公共サービス民営化制度を確立、1200の役所の全事業をリスト
化、公表し、民(企業、NPO)から「自分たちの方がうまくやれる」と
いう提案を公募した。
・一切の例外を認めない。「民営化などあり得ない」「公的な縛りがある」と
いう場合でも、例外と認めない。
・安くできる、というだけの提案なら却下する。「うまくできる、いいやり方
がある」というものを求める。
・例
駅前の行政サービスセンターの運営を定年の方によるNPOに任せる。
レセプトの点検も、民に任せる。
配食(夕食)365日サービス事業も、NPO、社会福祉法人がやってい
るが、事業者はあくまでも市である。これを町の食堂、レストランにお願
いしたほうが安く、おいしいのではないか。加えて安否確認、きざみ食も
やってくれる事業者を求めている。
・審査は全体審査と分科会審査で行う。
・全体審査は専門家3人、市職員2人の5人。
専門家3人は、PFI、アウトソーシングに詳しい大学教授、行政サービ
スが専門の女性の大学講師、市場化テストで国の事務局長をされた方。
市職員は企画室長など。
・分科会審査は市民や受益者が加わる。
・現在募集を受付しているところ。昨日までで27提案。その多さに驚いて
いる。(この段階で詳細は発表できない)
・審査の基準は「本当に市民の利益になるか」。サービス内容やコスト面。
・提出は「ラフスケッチ」の段階のものを出してもらう。その後は市と提案
者が一緒に作っていく。ここが、市場化テストとスタンスの違うところ。
・例
市の発行物。もっといいものを作ります、という提案もあるだろう。
起業支援
環境政策
健康づくり
都市施設の管理
水道、クリーンセンター、ごみ施設の事業運営
○民間の発想
・これまで、行政は「官」の発想で考え、決定してきた。
・これからは民間の発想で「奪い取る」という考えを取り入れていく。
・「補完性の原理」というのは一般に、
市にやれないことを県、県にやれないことを国がやる、と考えられている
が、実は、市の前に「市民、民」が存在している。
市民にやれないことを市、市にやれないことを県、県にやれないことを国。
補完性の原理のスタートは、「民」なのだ。
○自治基本条例
・市民によるコントロールによる行政運営が行われなければならない。
・現在、策定作業中だが、今全国的に発展中なので、ほんとうはもう少し待
ちたいところではある。が、今年9月に上程の予定。
・特徴@自治基本条例中にローカル・マニフェストを掲げる。→全国初。
→首長選挙では候補者がローカル・マニフェストを発表することを明定。
・特徴A議会がもっと議員立法できるよう、議会に審議会(附属機関)を設
置できるように規定。
・特徴B議会に常設の、行政への苦情窓口を作り、ここで内容を調査させる
制度を作る。
・特徴C行政に市民が日常的に、直接、関わる仕組みを作る。
例
職員採用試験委員に民間人。こういうところにこそ市民参加を。
沼への基金。沼の水質浄化へ、市民が貢献意識を高める。
予算作りをオープンに。
条例を市民が提案するに際し、市の政策法務室が技術サポートする。
・以上のように、「市民のコントロールの下に置かれる行政」の創出で、「新
しい公共」、「未来の公共」を目指す。
○場内との質疑応答
Q市長はたくさんの改革を矢継ぎ早に実行されているが、その発案、検討、
実施の段階において、反論、あるいは論敵はいないのか。(うちだの質問)
A
・365日、戦いです。
・職員との戦いであり、議会との戦いであり、場合によっては市民との戦い
もあります。
・確かに、市民の行政依存の気質はあります。そこで、市民にどう変わって
もらうか、その意味で、市民との戦いもしています。
・市民との懇談の席には、市長はスタッフを連れて行かない。市職員は市民
には「受け」がいいが、部下は「昨日までの人」。
・私は、庁内では独裁者、嫌われ者でもあります。
・だが、職員も変わってきつつあります。
・議会にも、根回しなし。現在議員は、30人中、女性が11人、30歳未
満の議員が7人います。
・議会では平気で否決されます。しかし、否決は、議会が機能している証拠
です。
・私が市長になってこれまで12回の予算上程。1度も、「無傷」で可決され
たことがありません。
・予算議会では、説明が終わると理事者は退席します。その後、議員だけで
修正案を練り、予算修正でなく市長訂正の形がとられます。
・これはエネルギーの要る話です。
※第5分科会に亀野議員、第7分科会に高木、三宅両議員が参加しましたの
で、それぞれの報告を添付します。
3.パネルディスカッション「地方から国を変える」
コーディネーター 鳥取県知事 片山 善博
アドバイザー 前全国知事会会長、前岐阜県知事 梶原 拓
パネリスト 千葉県我孫子市長 福嶋 浩彦
佐賀県多久市長 横尾 俊彦
地域交流センター田園所長 吉野 立
滋賀県守山市長 山田 亘宏
○片山 いちばん「変わらない」のは国だ。
中央政府の各省が最後まで抵抗している。
○福嶋 介護制度導入の時、国の基準では認知症の方が軽く扱われているから、
この基準を市では採用しなかった。国とはトラブルに。しかしこの制
度は自治事務であり、責任者は市長なのだ。結果、厚生労働省の方が
改訂した。
地方分権一括法を、まだまだ使い切っていない。
自立支援法の施行に際しても、市で独自に7項目を追加した。これに
対して厚生労働省は何も言って来ない。
地方のほうが、霞ヶ関よりも市民のことをよく知っている。
市民がコントロールできる市長がいるなら簡単に変えられる、議会に
も反映できる。市民が行政に直接参加できる、市民に近いところに財
源、権限を持ってきて、市民がコントロールできるのが、分権だ。
○片山 介護保険で、事業者を監督するのは県の仕事となっている。
しかし市町の広域連合で実体の事業を行っているのに、監督は県とい
うのはおかしく、これを移譲しようとしたら、厚生労働省から妨害電
波が入った。しかし実際にはうまくいった。なんと、厚生労働省発行
の「各地のいい取り組み」の事例の中で紹介された。
○横尾 市民の動きに対する市役所の対応は、「予算ない、仕組みない、前例な
い」。市民力を高めるために、「人をどう作るか」が大事だ。
市民、市役所、議会の3者が市民の底力を高めていく。
財政危機こそチャンスだ。
今、多久市では市役所窓口をすべて民間委託しようと検討中。
これまで10年間、実現しなかったことが、市民が「自分たちが土地
も確保する、測量も、草刈もする」という提案をして、1年で実現し
た例があった。
役所の仕事は、市長が予算をつけたからやる、議会で通ったからやる、
部長から言われたからやる、というのではなく、職員は、せっかく担
当させてもらっているんだから、担当者の「味」をつけろ、と言ってい
る。
毎週「経営会議」を行っているが、その場で「どうしたらいいでしょ
うか?」という問いには、回答しないことにしている。
○片山 役人は「よりどころ」が欲しいものだ。「私がやりました」とは言いた
くないものだ。
「前例があったから」とか「本省がいいと言ったから」とか言うが、
こんなのは何も説明していないのと同じ。自分の言葉で説明できるも
のなら、やっていい、と言っている。
○山田 私の公約は、
@職員の意識改革。できた人は仕事が楽しくてしかたないはずだ。
市民はお客様。
4.5年前、地下水の中に発がん性物質が見つかった。行政の都合
で発表をせず、批判を受けた。
市民から信頼されるため、町に出かけよう、距離感をなくそう、と
訴えている。
A市民が主役。自治会長が「草刈りをしてくれ」と言ってくる。市長
が、町に出かけて説得する。こうして理解が広がる。
○土屋 市職員9年、市議を2期、市長を3期、計40年、市民の現場にいて、
今は国会議員をしている。
永田町は、市民のことをよくわからないままに仕組みを作っている。
特に、若い国会議員にとって、イナカはただの票田だ。
○片山 国会議員の怠慢もあるが、地方も、国会議員にちゃんと情報を伝えて
いない。国会は法案すらわかっていないまま、議案を通しているのだ。
○梶原 日本は明治以降、欧米に追いつけ、追い越せで、欧米という教科書を
輸入し、東京で翻訳し、全国がそれを学び、実践してきた。
今、先進国のどこにも教科書はない。
地域が、自らの教科書を創る時代だ。
スウェーデンを訪問した折、認知症の人を地域で支えるための議論を
やっていた。福祉の先進国でもこのとおりだ。高い税金に対して、国
民の負担感はない。
岐阜県では、ふるさと福祉村、PSA検査2000円の補助で受診を
必須項目にしたほか、血管老化度、免疫細胞検査も独自に入れた。厚
生労働省任せの基準を用いていたら「いつ殺されるかわからない」。
これらの点、日本再生研究会「再生日本」のHPを参照願いたい。
岐阜県では「陳情」という言葉を使わず、「提案書」としている。
国は、岐阜県の「提案」を待ち、それを基に予算を作るようになった。
「国に教えてあげる」時代だ。
○片山 国民保護法制の時には、国はよく私たちの意見を聴いてから作ってい
た。よくできていた。
さて、県は「ミニ霞ヶ関」になっているのか?
○福嶋 我孫子市で国民保護協議会を、防災会議とひとつとし、「市民危機管理
対策会議」を作ろうとしたときのこと、千葉県は「そんなことをして
いる市はない」。これに市は「両方の法的根拠を明記しているから問題
ない」と主張。県は「県の了承もなく、そのパブリックコメントを行
うとはけしからん」。
市長は県に直接電話「けしからんとはけしからん」。市の市民安全室「こ
れからは県とは一切話をしない」「違法というなら文書で寄こせ。口頭
ではやらない」。
すると県「市は合法だ」それを認めた上で「これからもアドバイスさ
せて欲しい」と。
大切なのは「自立の精神」。強い意志を持っていること。
市民自治、住民自治を、市民の中に形成していくことが大事。
国対地方で争うのを、市民が眺めているのではダメ。
予算編成段階から、我孫子市ではすべて市民に公開している。各課の
予算要求も市HPで公開している。以降、1次査定、2次査定、市長
査定の各段階で公開している。すべてを見せて、パブリックコメント
を求めている。
どこで誰が作ったのかを、市民は見ることができる。
○片山 「上級官庁」というのはないが、その言葉を言われたらたじろいでし
まうのが実情だ。
これからは「法制」が大事。市はこれまで、何でも県地方課に求めて
きた。これはやめた方がいい。
解釈は国だけがするものではない。最後は司法が解釈するものだ。
法制能力の向上充実が大事だ。役所も議会もそうだ。自立へのポイン
トだ。
○横尾 多久市では役所の窓口業務を委託。スチュワーデスのOG、子育て終
了後の方の2名。人気は上々。
民間委託に際してはセキュリティ、法的根拠、問題発生の時の対応な
どの仕組みの整備が重要。
窓口業務を公務員がしなければならない理由は、プライバシーの保護
のみ。裁判所の書記も民間委託している。
安全性さえ確保すれば、それはできるのだ。
道路は公務員が作る、というのも、あまり意味のないことだ。
○片山 指定管理者制度から市場化テストへ。
コストと質、守秘義務と安全が課題。
先日発生したプール事故に見るように、アウトソースの暴走がある。
○横尾 これは銀行からいただいたアドバイスだが、抜き打ち検査、ポップビ
ジットが効果的。外交から帰った銀行員の持ち物を全部見せさせる。
お客さんの通帳など持っていたら、厳罰に。
これをヒントに、市長が、住基ネットのセキュリティシステムを抜き
打ちで調べることもある。
○山田 守山市では「福祉の山田」で通っている。山田は福祉しか知らないと
言われる。そのとおりで、知らないことは言わないことだ。
市職員も間違えたときは謝れ、と言っている。言い訳するから「市役
所がまた」と言われる。
ご近所の底力をとりまとめる仕事も、役所ではなくNPOがやるよう
なイメージでやらなくてはいけない。
○片山 公約というものはいい加減には作れない。できないとみっともない。
政治不信を招く。
○吉野 ある図書館では、市直営だが正規の職員は25%である。
行政マンは、能力の高い人がなっていると思っている。
イナカほど人材が少ないと言えるが。
そんな中で、視察が来るような高い運営をしている。
行政には、当事者の相談総合窓口がほしい。病気ごとに縦割りされて
いるのが実情だ。
○土屋 プールの事故は今後も起こりうる。シンドラー社にも発注者にも問題
がある。400万のところを100万円で受けているのだ。
競争入札すれば責任を逃れられる、という背景がある。
発注には2つの型がある。労働集約型と技術革新型だ。
新たな仕事なのか、役割としての仕事なのか、を立て分ける必要。
役割と仕事が評価されていないのが実情だ。新仕事万能という考え方
がある。
格差がある。格差をどう容認していくかが大事だ。そのためのいろん
な尺度がある。合理的な格差を整備していくことが大事だ。
内山節(たかし)という哲学者の言葉に「わが村が世界一」とある。
そう思っている住民がたくさんいるものだ。
ここが自治の原点だと思う。
○片山 国は、仕組み作りで大変だ。国会議員の勉強にも限界がある。
だからこそ地方分権である。仕組みを、自治体ごとに設計していける
ようにすれば、自立はできる。
「行政サービス」は「行政迷惑」であることもある。
これからは「省いていく」ことにも着目しなければならない。
仕組みを作っても、5年経過で自動失効するようなやり方もある。
年限を切って見直しを義務付けるやり方もある。
プールの事故が起こって、マスコミは中央省庁にその責任の所在を求
めて取材するが、しょせん責任は市役所にあるに決まっているのだ。
○梶原 市民自治は自己責任社会だ。
プールの責任を文部科学省とすること自体、時代に逆行している。
山道の落石が国家の賠償責任なのは、日本だけだ。
国はじゃんじゃん法律を作り、がんじがらめだ。
そんな必要はなく、そんな時代ではないのだ。
4.感想
偶然、鳥取に向かう列車で、前の座席に福嶋我孫子市長さんを見つけました。
到着時刻が近づき、降り支度をする頃に名刺交換させていただいたのは、返す返すも残念でした。米子を出てすぐでしたら、相手の迷惑覚悟で、もっともっとご教示いただくことができたでしょう。
市長は講演の直前の時間。静かに準備をまとめる時間でしたでしょうから、まあこれでよかったのかも知れません。
私が氏の姿を見て、すぐに彼とわかったくらい、私はこれまでに氏の著作その他を通して、よく存じ上げておりました。その理念と実践に、心から敬服している一人でした。ですので、分科会の第一希望は迷わず、氏の講演を選んでいました。
「朝、列車でお会いしました、丸亀市の内田です」と、私は講演後半の質問で手を挙げました。
どうしてそのように改革が実現できるのか・・・。
「毎日、365日が戦いです。職員との戦い、議員との戦い、そして市民との戦い・・・」この返答が、これを書いている今も、私の心に響いています。
ここで氏のおっしゃる「戦い」というのは、相手を敵に回してのいわゆる対決ではないと考えます。
押したり引いたりしながら、相手を次第に高めていく、というのが相手に失礼なら、互いに高めあっていく、そのようなやりとりのことを言うのだと思います。
庁内では自分は嫌われ者、と謙遜されましたが、ただ単なる嫌われ者なら、まず、このような改革実績をあげられないのではないでしょうか。
私自身、議会の中で嫌われ者であって自分の理念が実現できるなら、嫌われ者にもなりましょう。しかしそれだけではないはず。そこに、私が反省したり、さまざまに迷ったり、時に呻吟する所以があります。
ともあれ非常に整理された、淀みのないお話の中に、私は市長ではないのだからそのまま追随はできないけれども、こうして一歩先を行く人がいる、それを受け止めるだけですがすがしい希望をいただく心地でした。
「カネがないなら知恵を出せ」。この言葉もすでに使い古され、言われても元気の出ない言葉となってしまいました。「知恵もないならどうすりゃいい?」と、ふてくされたくなる、市職員のつぶやきも聞こえてきそうです。
間近に拝見する我孫子市長は小柄で、あぶらぎった、政治家然とした風貌もなく、この容貌のどこから改革のパワーが出てくるものか、その不思議さが後に残ります。が、彼の存在そのものが、おそらく我孫子市職員のそのふてくされたくなる気持ちを高め、意欲を呼び起こしているエネルギー源であることは間違いないと思います。
県に向かい、「けしからんとはけしからん」とまくし立てるその姿に、市職員もモチベーションをいやがうえにも高められるのではないでしょうか。
ほとんど、そのカリスマ性を空高く仰ぎ見るような心地で、私は聴講を終えました。
しかし現実の丸亀市に立ち返り、自分たちの制度設計を自分たちで作らなければならない、そのことを思い起こし、何にどう着手すればいいのか、はたと迷いに陥るのですが、ここで立ち止まっては、研修を受けた甲斐がありません。
自分の、議会での発言はこれでいいのか、市民への説明は十分なのか、議員仲間との議論で、もっと進めるべき知恵が私にはないのか。
決して、「理事者がわかってくれないからしかたない」「同僚議員の賛同を得られないからしかたない」「市民も地域や個人の要望ばかりだから」と、自分の居心地をよくせずに、自分を高め、追い詰めてまいりたい。
一歩先を行く人たちを自分の視界から見失わず、自分もまた、職員のモチベーションを高める人に、そして市民力を強める人に自らを高めてまいりたい。